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2021.06.01
ギリギリ間に合った遺言と死後事務委任契約
おはようございます。名古屋の死後事務支援協会の代表の谷です。6月に入り衣替えのシーズンとなりましたね。
普段から遺品整理の現場で作業着を着ていることも多い私ですが、やはり暑い時期にネクタイを締めるのは辛いものがありますので、今月からはノーネクタイでいきたいと思います。
さてさて、本日は死後事務委任契約書作成のお話しですが、コロナ禍においてこれまでは出来たのに、コロナ禍では出来なくなってしまった手続きというものがいくつかあります。その中で私たちの業務に関係してくるのが「遺言書」と「死後事務委任契約書」の作成です。
もちろん、遺言書や死後事務委任契約書が作成できなくなった訳ではなく、コロナ前とコロナ禍で出来なくなった、またはし辛くなった業務があるということです。
それはなにかというと、病院内での公正証書遺言や死後事務委任契約書の作成です。ご存知の通り、現在病院では病院内でのコロナ感染を防ぐために、多くの病院で面会禁止となっています。
ですので、重度の症状の方などでは一度入院してしまったら次に家族と会えるのは「お骨」になってからと言われるほど、感染対策としては徹底されている部分があります。
これは、多数の入院患者を抱える病院内でクラスターでも発生しようものならその被害は甚大な物となってしまうため、仕方のないことでもあります。
しかし、私たちのような遺言書や死後事務委任に携わる者からすると、この対策は依頼者にとって非常に難しい選択を迫ることになりかねないケースだとも考えています。
何故か?というと、遺言書や死後事務委任契約書という物は生前にご本人の最後の希望を記しておく非常に重要な書類となります。
遺言書で言えば、遺言者の方の財産を誰にどのように渡すのかという意思表示が含まれますし、死後事務委任契約書で言えば、万が一自分に何かあった場合には、葬儀や遺骨をどうして欲しい、または遺品整理や自宅の処分をこのようにして欲しいといった、依頼者の最後の希望が書かれている書類となる訳です。
極端な話し、遺言書にしても死後事務委任契約書にしても、本人の「最後の意思表示」と言えるものであり、特に遺言書は法律で定められた通りの要件に従って作成しなければ、「無効」(遺言は無かったものとされる)となってしまう大変重要な書類でもあります。
ですので、多くの専門家が遺言書は無効になる危険性が少ない「公正証書」で作成しましょうと口をすっぱくして言うところではあるのですが、これが現在病院内で作成できなくなっています。
コロナ前であれば、例え重篤の方であっても自分の意思を表明できる程度の能力が残っていれば、公証人の先生が病室まで出張して「公正証書遺言」を作成してくれました。
これは例え、手が動かない、言葉が離せないといった症状がある方でも、公証人の代筆や筆談といった方法でもって作成することができましたので、ある意味最後の意思表示をする機会が平等に与えられているとも言えます。
しかし、この最後の意思表示をする機会がコロナ禍での病院では失われてしまっているのが実情でもあります。
先日ある、肝臓がんを患っている方から緊急のご連絡を頂きました。年齢はまだ60代の方で本来なら第二人生をこれから謳歌していてもおかしくないような方です。
ご相談内容としては、死後事務を託したいという内容ですので、それだけなら普段のご依頼内容と変わりありません。しかし、この方には残された時間が少ない。
ご相談者いわく、医者も既に手の打ちようがない状態で、もって1ヶ月位だろうという病状らしく、実際に面談させて頂い際はお腹には腹水がかなり溜まっているような状況でした。
通常、死後事務委任契約を結ぶ際はご本人様から希望内容の聴き取りや費用の概算、実際の契約書の下書き等を確認して頂く為に何回か面談をさせて頂きながら作成を進めていきます。
しかし、お電話で最初のご相談を頂いた段階で、この方は緊急性が高いことが分かっていましたので、通常通りの手続きでは、間に合わない可能性があります。
そうした場合は、公証人役場に相談すると可能な限り早く公正証書の作成の準備に入って頂けるのですが、この方の場合は既に入院が目前に迫っている状況でもありました。
上でも述べた通り、コロナ前でしたらそうした場合でも入院病棟に公証人の先生が来て頂けて手続きを進めることができたのですが、今回は入院予定先の病院に確認したところ「病棟への入室は一切禁止」とされてしまい、公証人の先生に来て頂くことができません。
病棟に入る前のロビーなどでの作成も検討したのですが、こちらも特別な許可がなければ不可とされてしまい、実質病院内での公正証書の作成は出来ないこととなってしまいました。
では、どうするのか?というと、まずは本人の意思を公正証書以外の書面で残すことが必要です。遺言や死後事務委任契約書という書面は、公正証書でなければ効果がでないという訳ではありません。
むしろ、自筆で書かれる「自筆証書遺言」や一般契約書で作成される死後事務委任契約書の方がその利用率は高いかと思われます。(ただし、遺言書が無効になったり、不明確な死後事務内容になったりする恐れ有り)
公正証書を作成する予定であっても、公正証書を作るまでには印鑑証明書や戸籍の取得、証人2人の確保、公証人の先生との日程調整と、作ろうと思っても即日作成できる物ではありません。
しかし、そうした準備をしている間に体調が悪化して亡くなってしまっては、せっかくのご本人の意思を実現することができなくなってしまうため、公正証書の作成が間に合わなかった場合の保険として自筆証書遺言と一般契約書での死後事務委任契約書を作成しておくことが非常に大事となります。
今回の方も入院は腹水を抜く為の一時的な物であったので退院してから、または入院中でも外出許可を取っての公正証書遺言の作成を目指し、万が一に備えて面談させて頂いた際に自筆証書遺言と死後事務委任契約書の作成を行うという方法で対応しました。
幸いご本人様の遺言や依頼したい死後事務の内容は明確に決まっていましたので、自筆証書遺言と死後事務委任契約書の作成は無事終わりました。
しかし、後はご本人さんの体調の良い日に公正証書の作成をと段取りをしていたのですが、入院先の病院から死亡の連絡が入るという結果に。
残念ながら公正証書での作成には至りませんでしが、念の為にと作成しておいた遺言書と死後事務委任契約書が保険としての効果を発揮する形になった事例となります。
今回の方は自分の病状を正確に把握しており、それに向けてご自身がどうしたいのかをかなり明確にされていましたので、公正証書にする事は叶いませんでしたが、自筆証書遺言や死後事務委任契約書はすぐに準備することができました。
もし、これが入院した後に病院からのご相談の連絡となっていたら、コロナ禍では対応できなかったかもしれません。
ワクチン接収が進めば、こうした病院の厳格な感染対策も緩和されると思われますが、まだまだ予断を許さない状況でもありますので、心配な事があれば専門家の方へなるべく早い段階で相談するようにして頂ければと思います。
死後事務委任のご相談は名古屋の死後事務支援協会までどうぞ。