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2025.02.07
ひとり身の兄弟姉妹の相続に両親の出生~死亡までの戸籍が必要な訳
おはようございます。名古屋の死後事務支援協会代表の谷です。
またまた寒波襲来で日本海側は大変なことになっていますね。私も以前、福井市に住んでいた頃に4年に一度の大雪と言われる状況に遭遇し、朝起きたら車が雪山に変身してしまい愕然とした思い出があります。被害が広がらない事を願っています。
さて、本日は死後事務の執行において必要となる戸籍の範囲についての解説となります。実際には死後事務委任契約と一緒に作成することの多い、遺言書における遺言執行者が集めるべき戸籍の範囲となります。
死後事務委任契約を希望される方には「未婚」で「子供がいない」という方も多く、契約を希望される方の多くが70歳前後でもありますので、ご両親も既に亡くなっているケースがほとんどです。
そうした場合に、依頼者の方の相続人となるのは、依頼者の兄弟姉妹(兄弟姉妹が先に亡くなっている場合は甥や姪)となります。
兄弟姉妹には、相続人に最低限保証される相続分としての「遺留分」はないため、遺言書を作成しておくことで、兄弟姉妹へは財産を残さないという事も可能です。
遺言執行者は、遺言執行者に就任する際に自身が遺言執行者となって相続手続を進めていくことを知らせる「就任通知」を遺言書の写しを添付して相続人や受遺者へと送る義務がありますが、この就任通知は遺言書を作成した結果、1円も財産を貰わない相続人に対しても発送しなければいけません。
つまり、遺言執行者としては遺言書の内容に関わらず、相続人の生死と現住所を戸籍や戸籍の附票にて確認を行い、相続人全員へと就任通知を送らなければいけないことになるわけです。
その相続人の調査において取り寄せる戸籍の範囲が今回のテーマとなります。
兄弟姉妹が相続人となる場合に必要となる戸籍は通常より多くなる
死後事務委任契約の委任者が未婚で子供もいない方の場合、相続人となる方は委任者の兄弟姉妹となります。
ですので、遺言執行者が手続を行うにあたり、まずは相続人が誰なのかを委任者からの聴き取りだけではなく公的な書面で確認する必要があります。
その際に確認するのが「戸籍」となります。
相続で一般的な、親が死亡して子供が相続人となる場合に必要となる戸籍は、「故人の出生~死亡までの戸籍」となります。
これは、故人の相続人が誰であるかを確認するにあたり、故人に子供がいるなら子供が第一順位の相続人となるため、故人が生まれてから死亡するまでの戸籍を取り寄せれば、故人と血縁関係(認知した子供や前妻との間の子供も含む)がある人は全て戸籍に記載されていることになるからです。
例え、亡くなった父親が母親との結婚前に付き合っていた女性との間に子供がいて認知している子供がいたとしても、「認知」したという事実が戸籍に記載されていますし、また、前妻との間に子供がいた場合であっても、前妻との婚姻や前妻との間に子供が生まれた事実は「婚姻」や「出生」として戸籍に記載されています。
ですので、故人の相続人に関して必要な情報は故人の出生~死亡までの戸籍を辿ることで、全て洗い出しができることになり、士業の方々が行う相続人調査とは戸籍を確認して故人と血縁関係がある人の洗い出しということになります。
では、今回の本題ともなる、相続人が兄弟姉妹となる方の相続の手続に必要となる戸籍はどうなるのかというと、上の例からいくと「委任者の出生~死亡までの戸籍」を取り寄せれば良いようにも感じますが実は違います。
まず、兄弟姉妹での相続関係を図で確認してみましょう。下の図をご覧ください。

死後事務委任契約の依頼者を次男のCとした場合の相続人関係図となります。
次男Cは未婚で配偶者も子供もいないため、遺言で自分の財産を子供の将来に使用してくれるよう公益財団法人へ自身の財産を全額遺贈するとしています。
依頼者である次男Cには、兄弟姉妹として長男A(存命)と長女B(死亡のため代襲相続あり)がいますが、両親及び直系の尊属は全員既に死亡しています。
こうした相続人関係において、仮に次男Cが死亡した場合に遺言執行者としては、相続人全員へと就任通知を送る必要があるため、次男Cの相続人を戸籍により確認する必要があります。
では、遺言執行者として故人である次男Cの出生~死亡までの戸籍を取り寄せれば相続人が全員確認できるのかというと、必ずしもそうとは言えません。
次男Cの出生~死亡までの戸籍を取り寄せたとしても、次男Cは両親である甲乙が結婚した後に生まれているため、次男Cの出生~死亡までの戸籍には、両親の婚姻~次男Cが死亡するまでの事情しか記載されていないことになります。
その為、例えば両親が結婚する前に父親甲が不倫相手との間に子供(丁)を作っており、それを認知していたとしてもその事実は婚姻後の戸籍には出てきません。
ただ、父親甲と血縁関係にある(丁)は次男Cと半分だけ血が繋がっている、いわゆる半血の兄妹となるため、次男Cの相続人となり、遺言執行者としては(丁)に対しても就任通知を送る必要があることになります。

別の図で戸籍の記載の流れを確認してみましょう。
上の図は、次男Cの両親である甲乙の出生~死亡までの流れを図示した物となります。
甲乙は、結婚する前はそれぞれの親の戸籍(次男Cから見て祖父母の戸籍)に入っており、結婚をする際に新に甲乙夫婦の戸籍を作ることになります。
一般的に男性の戸籍に女性が入る形を取ることが多いため、このケースで言うと、甲乙の結婚により、甲を筆頭者とする戸籍を新たに作成して、新規に出来た甲の戸籍に乙が入籍してくることになります。
その後、甲乙間に長男A、長女B、次男Cが生まれて、甲の戸籍に「出生」としてそれぞれ入籍することになります。
長男Aと長女Bは結婚をしており、結婚をすることで甲乙と同様に結婚相手との戸籍をそれぞれ新しく作ることになりますので、A及びBは甲の戸籍から出ていくことになります。(除籍)
ただ、次男Cは結婚をしなかったため、甲の戸籍にそのまま残ったままとなります。これは例え甲が死亡したとしても戸籍に生前している人が残っている限りは甲を筆頭者とした戸籍はそのまま残されることになるため、次男Cが生きている限りは甲乙が死亡したとしても次男Cは甲の戸籍に在籍したままとなります。
つまり、次男Cの出生~死亡までの戸籍とは次男Cが在籍している「父甲の婚姻~次男Cの死亡までの戸籍」と同じ意味となります。
ただ、上の図でもわかる通り、父甲の婚姻から次男Cの死亡までの戸籍を取り寄せても、父甲や母乙の婚姻前の事情については判明しません。
ですので、例えば父甲に婚姻前に認知した子がいる場合や母乙が再婚であり、母乙が前夫との間に子供をもうけていたような場合は、甲乙の婚姻前、つまり甲及び乙の出生まで遡って戸籍を確認しておかないと、相続人に漏れがでてしまう可能性があるということです。
ですので、死後事務委任契約において、兄弟姉妹が相続人となる場合に必要となる戸籍の範囲は、第三順位の相続人を全て調査する必要があることから、委任者の両親(父方、母方)それぞれの出生から死亡までの戸籍を取り寄せる必要があることになります。
この戸籍の取り寄せを遺言執行者が行う場合は、現行の制度では父方、母方の戸籍のある自治体へそれぞれ請求する必要があり、父及び母の本籍が遠隔地にあるような場合は郵送で申請することになり非常に時間が掛かることになります。
ただ、死後事務委任契約を行う前に依頼者が直接役場に赴いて「戸籍の広域交付制度」を利用して申請すれば、依頼者のお住まいの自治体の窓口で、父方、母方の直系尊属の戸籍は全て取り寄せることができるため、兄弟姉妹の相続が想定される場合は、事前に依頼者に取り寄せておいてもらい、執行の時までそれを受任者にて保管しておくといった方法を取ると、相続人調査の時間を大幅に短縮することができるようになります。
広域交付制度で取り寄せができるのは、直系血族の戸籍となるため、傍系血族である兄弟姉妹の戸籍までを事前に取り寄せをすることはできませんが、直系の血族の分の戸籍だけでも事前に揃っていれば、依頼者死亡後は依頼者死亡の記載のある戸籍と兄弟姉妹の戸籍を取り寄せをすれば良いだけとなりますので、非常に時間が短縮されることになります。
これから死後事務受任者としての活動を予定されている方は契約時にどこまで戸籍を集めておくべきか悩まれることもあるかと思いますが、戸籍自体には使用期限はないため事前に集められる物を集めておくというのがお勧めです。
相続・死後事務委任契約に関するご相談は名古屋の死後事務支援協会までどうぞ~。